Work

Elucidation of Mechanism for Enhancing Female Reproductive Function by Male Ultrasonic Vocalizations

Type: dissertation
Abstract: 【総合緒言】 動物の繁殖は、適切な交配相手を見つけ、認知し、求愛することによって始まり、その際に、雄と雌は様々な感覚を利用してコミュニケーションをとりあう。その一つである音声による雌雄間コミュニケーションは、これまで鳥類やシカなどで詳しく調べられており、雄の鳴き声には雌を誘引する効果があるだけでなく、排卵を促進するといった繁殖機能を活性化する効果があることも報告されている。 雄マウスも雌に出会うと、ヒトには聞こえない超音波領域で鳥類のさえずりのような歌(Ultrasonic vocalizations; USVs)を発する。マウスのUSVs研究の多くは、様々な発達過程や環境下、系統や疾患モデルにおける発声パターンの解析に焦点が当てられてきた。しかしながら、雌マウスにおけるUSVsの受容と伝達に関わる神経回路と繁殖制御機構に対する効果については未だ不明な点が多い。博士前期課程の研究では、雌は自身とは異系統の雄のUSVsへ嗜好性を示し、子孫の遺伝的多様性をもたらす配偶者選択に寄与することを示唆してきた。また、雌のUSVsへの嗜好性は雄の床敷や雄フェロモンが存在している際に顕著に現れることを明らかにしている。このことから、雌は雄が発する聴覚シグナルと嗅覚シグナルを脳内で統合することで、適切なUSVsへの嗜好性を示す可能性が考えられた。そこで、本研究の第1章では、雄のUSVsが雌の接近行動に対して効果を示すための聴覚シグナルと嗅覚シグナルの統合機構を明らかにすることを目的として、USVsとフェロモンの共提示により活性化する脳部位の同定を目指した。 雄のUSVsが雌の繁殖機能を促進させるかについては、博士前期過程の研究で、USVsを多く発声する雄とペアになった雌は出産回数が増えることを明らかにしている。このことから、雌が雄のUSVsを受容することで繁殖制御中枢が活性化し、交尾行動や排卵の促進によって繁殖効率が向上するメカニズムの存在が考えられた。しかし、USVsがどのように雌の繁殖制御機構に作用しているのかは明らかになっていない。そこで、第2章では、雌性ホルモンであるエストラジオールと、生殖内分泌中枢を司るキスペプチンニューロンに着目し、雄のUSVsの提示によりその活性レベルが高まるかを調査した。 【第1章 雄の超音波音声とフェロモンの統合神経核の同定】 実験1では、雌の性的覚醒を高めることが報告されている雄フェロモンであるExocrine gland-secreting peptide 1 (ESP1) (Haga et al., 2010) と雄のUSVs、あるいはESP1とバックグラウンドノイズ (Noise) を提示されたC57BL/6J (B6)系統の雌の神経活動を比較した。再生音には、B6系統の雄のUSVsよりも嗜好性を示すことが明らかになっているBALB/c系統の雄のUSVsを用いた。活性化した神経細胞の脳内局在は、c-fosのmRNA発現を指標に、in situ ハイブリダイゼーション法を用いて全脳領域で解析した。その結果、内側前頭前皮質 (mPFC) において、ESP1とUSVsを共提示した群は、ESP1とNoiseを提示した群に比べてc-fos陽性反応の顕著な上昇が見られた。また、一次聴覚野 (Au1) の2-4層、視床下部の腹内側部背内側核 (VMHdm)、扁桃体基底核 (BLA) においてもESP1とUSVsを共提示した群ではc-fos陽性反応が有意に高かった。 実験2では、複数の刺激に由来する情報を統合する領域だと考えられており、実験1で雄のESP1とUSVsの共提示により高い神経活性があることが検出されたmPFCの前辺縁皮質 (PrL) と下辺縁皮質 (IL) に着目して、その神経活性と雌の行動との関連を調査した。その結果、ESP1とUSVsを共提示した群では、対照群である溶媒 (Tris) とNoiseを共提示した群やESP1とNoiseを共提示した群に比べて、PrLのc-fosタンパク質の発現が有意に多く観察された。再生音提示中の行動と相関分析を行った結果、PrLのc-fos陽性細胞数と再生開始から5分間のスピーカー探査行動の持続時間には、正の相関が認められた。 実験3では、二重免疫組織化学的手法を用いてESP1とUSVsにより活性化した神経細胞の特性を調べた。皮質における神経細胞は、使用している神経伝達物質によって抑制性ニューロンと興奮性ニューロンに大きく分類され、抑制性ニューロンはGABA (γ-aminobutyric acid: ガンマ-アミノ酪酸) を、興奮性ニューロンはグルタミン酸を伝達物質として使用している。そこで、GABA作動性ニューロンならびにグルタミン酸作動性ニューロンに着目して解析を行った。その結果、c-fos陽性細胞の多くが、GABA陽性細胞よりも、グルタミン酸作動性ニューロンのマーカーとして用いたGLS2 (Phosphate activated glutaminase 2) 陽性細胞と重なっていた。このことから、USVsとESP1の複合的な刺激によりPrLで活性化する神経細胞の多くが興奮性のグルタミン酸ニューロンであり、情報を他の領域へ伝達し、USVsに対する接近行動を制御している可能性が示された。 【第2章 雄のUSVsが雌の生殖内分泌へ及ぼす効果の調査】 超音波スピーカーによる雄のUSVsの提示により、雌の生殖内分泌中枢が活性化されるかを末梢(実験4)、中枢(実験5)、神経細胞(実験6)単位で調査した。実験4 では、末梢に蓄積されたエストラジオール値を反映している糞中のエストラジオール値が雄のUSVsによって上昇するかを調べた。齧歯類の糞中のエストラジオール値は、雌の性成熟や性周期に応じて変化することが認められている(Chelini et al., 2005)。本実験では、非発情期の雌、発情期の雌、発情前期の雌、卵巣を除去した雌にNoiseまたはUSVsを提示し、その後、排泄した糞中のエストラジオール濃度を測定した。しかし、Noise提示群とUSVs提示群の間で、糞中エストラジオール濃度に明瞭な差は見られなかった。 実験5では、非発情期の雌と発情前期の雌に、NoiseまたはUSVsを提示し、その後、視床下部と聴覚野のエストラジオール濃度を測定した。鳥類では、雄の歌によって視床下部や聴覚野のエストラジオール値が上昇することが報告されている (Maney and Pinaud, 2011)。しかし、マウスを用いた本実験では、どちらの領域においてもNoise提示群とUSVs提示群の間で、エストラジオール濃度に明瞭な差は見られなかった。実験1では、雌に雄のUSVsとフェロモンを共提示することによって、聴覚野や視床下部の一部により高い神経活性が起こることを見出している。マウスの場合、USVsのみの刺激ではなく、雄の聴覚シグナルと嗅覚シグナルの複合的な刺激を受けることが、これらの脳部位の活性を効果的に高めるために必要であると考えられた。 そこで、実験6では、雄の嗅覚シグナルとの共提示の影響を加味し、視床下部の神経細胞に着目して解析を試みた。性腺刺激ホルモン放出ホルモン (GnRH) のサージ状分泌を制御し、また排卵の誘発に関与する前腹側周囲核 (AVPV) におけるキスペプチンニューロンと、GnRHのパルス状分泌とFSH分泌を制御し、また卵胞発育に関与する弓状核 (Arc) におけるキスペプチンニューロンの活性を、リン酸化cAMP応答配列結合タンパク (pCREB) を指標に二重免疫組織化学的手法により観察した。その結果、AVPVにおける活性化キスペプチン陽性細胞の割合は、提示した刺激の違いによる差が認められなかった。一方、Arcを背側部 (ArcD) と外側部 (Arc L) の2領域に分けて解析した結果、ArcLにおける活性化キスペプチン陽性細胞の割合は、提示した刺激によって差があった。ArcLではpCREB陽性細胞数とキスペプチン陽性細胞数に違いはなかったが、USVsを提示したTris + USVs 群とESP1 + USVs群は、Tris + Noise群に比べて活性化キスペプチン陽性細胞の割合が高い傾向が見られた。これらの結果から、雄のUSVsはArcにおけるキスペプチンニューロンに作用していることが示唆された。 【総合考察】 本研究の解析から、雄のUSVsとESP1の共提示により雌のPrLの神経がより活性化することが明らかになった。PrLは感覚統合や意思決定に関連していることが報告されていることから、雌は雄の聴覚情報と嗅覚情報をこの部位で統合し、適切な雄への嗜好性や接近行動を示すことを見出した。加えて、USVsはArcにおけるキスペプチンニューロンに作用し、卵胞発育を促進する可能性も示した。本研究は、雄のUSVsがフェロモンと共に雌の感覚統合機構に作用して適応的な繁殖行動を誘発するという雌雄間コミュニケーションの新たなメカニズムを明らかにし、さらに雄のUSVsが雌の繁殖内分泌中枢を活性化することで、繁殖機能促進に寄与していることを示唆した。
Language: Japanese
Open Access status: green
OpenAlex ID: W7208369999
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